“キャリアの見通し”が採用成功の鍵に「育てる前提の採用」が人材を惹きつける
- huminaresource
- Jul 23
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昨今、画一的な新人研修(オンボーディング)を受けたものの、その後に成長の機会が得られなかった新入社員が、数ヶ月後には静かに転職活動を始めるケースが増えてきています。 変化の激しい現代の働き方において、「学習と人材開発(L&D: Learning & Development)」は、人材の獲得や定着、エンゲージメントを通して、社員のライフサイクルを支え、優秀な人材離れを防げるかどうかの決定要因となりえる柱になっています。
優秀な人材を惹きつけるため具体的な成長例をシェアする
優秀な人材を確保するためには、人事や採用担当者が、キャリア成長の道筋(学習プログラムの提供、資格取得の支援体制など)を、候補者の目標に響く形で説明できるよう準備しておくことが重要です。 採用活動は、候補者との面接前から始まっています。ウェブサイトの採用ページ、募集要項、SNS投稿などを通して、組織が提供している学習支援や働き方の文化などをシェアすることも採用活動の起点となります。そうした機会に、社員が学位を取得した事例、昇進したり、新たなスキルを活かして成果を上げたりした事例の共有は、候補者に組織での成長イメージを持たせる強力な手段となります。
L&Dは“新人研修”で終わらない学びとキャリア成長を結びつける
L&Dは、オンボーディング(新人研修)で完了するものではありません。もしそこで学びの機会が止まってしまえば、社員は次段階の成長機会を外部に求め、離職につながるリスクが高まります。 SHRM(全米人材マネジメント協会)が発表したレポート「What Global Workers Want」によると、社員の約72%が「キャリアアップの機会は非常に重要、あるいは極めて重要」と回答しています。にもかかわらず、現在の職場でそのニーズが満たされていると感じている人は、わずか43%に留まっています。 このギャップは裏を返せば、L&Dを単なるスキル習得の手段から、社員のキャリア設計を支援する“戦略的ツール”へと進化させる好機でもあります。最も効果的なL&Dプログラムは、社員の自主的な学びを起点に、ピアメンタリング(同僚からの指導)、資格取得支援、実務を通じた経験など、多様で柔軟な要素を組み合わせて構成されています。 また、社員が求めるのは昇進といった「縦の成長」だけではありません。部門横断的なプロジェクトへの参加や、新分野へのチャレンジといった「横の成長」もまた、スキルの深化とエンゲージメントの維持に大きく貢献します。重要なのは、こうした学びがキャリアの未来につながっているという実感を社員に持たせることです。 社員が現在どのような成長機会を求めているのかを把握することが、その第一歩です。
社員の学びたい意欲に企業は応えられているか?
現場で求められるスキルが急速に変化するなかで、社員自身も積極的に学びを求めています。しかし、スキルギャップの拡大と技術変化の加速により、企業にはかつてないスピードでの対応力が求められています。SHRMが発表した「2024年タレントトレンドレポート」によると、過去1年間に採用されたフルタイム職のうち4分の1は、従来とは異なる新たなスキルを必要とする職務であり、76%の企業が「適切な人材の確保に苦労している」と回答しています。
こうした人材の課題に対し、採用活動のエリアだけで対応するのには限界があります。実際、社員側は再教育やリスキリングに前向きで、世界全体で約86%の社員が「変化に対応するために再教育・リスキリングを受ける意思がある」と答えています。にもかかわらず、56%が「雇用主または政府からの教育支援がない」とも回答しており、意欲があるにもかかわらず、企業側の支援体制が追いついていないのが現状です。
「一律の研修プログラムでは、限界があります」と、SHRMでタレント戦略と従業員エクスペリエンスを担当する、人材開発の専門家であるジョーンズ氏は指摘します。「本当に効果を上げるには、L&Dを各チームの具体的なニーズに合わせて設計する必要があります」。
これからの人事には、現場のマネージャーと緊密に連携しながら、組織の変化に即応するL&Dの展開が求められます。その方法は多岐にわたります。たとえば、自社に適した研修プログラムの構築、ピアラーニング(同僚同士の学び合い)の導入、あるいはLinkedIn Learningのような外部リソースの活用など、コストを抑えながらも柔軟に対応できる方法が増えています。
“社員の成長の仕組み”としてL&D実現の鍵は?
L&Dの構築や改善に取り組むHRプロフェッショナルに向けて、ジョーンズ氏は3つのアドバイスを提示しています。 それは、「戦略から始める」「経営層と連携する」「社員の声を聞く」ことです。 「L&Dが企業のビジョンや社員のニーズと結びついていなければ、それは単なる“研修”でしかありません」と彼は強調します。企業の成長に資するL&Dとは、採用、オンボーディング、昇進といった社員のライフサイクル全体に戦略的に組み込まれているものです。そうした設計がなされて初めて、社員エンゲージメントの向上、人材の定着、さらには組織内イノベーションといった実質的な成果へとつながります。 今、人事のリーダーが向き合うべきは、「L&Dに投資するか否か」ではありません。問うべきは、「いかに戦略的にL&Dを設計し、展開するか」なのです。 実効性のあるL&Dを実現する鍵は、社員一人ひとりの成長意欲と組織の戦略をつなげる設計にあります。今こそ、現場の声に耳を傾け、学びを“個と組織の未来”に結びつける仕組みづくりを進めるべき時です。
参考資料:SHRM『Make Learning and Development a Talent Magnet』
執筆者:
Chihiro Bjork
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