「新入社員オンボーディング(New Employee Onboarding)」とは、新入社員に対して、組織に関するさまざまな情報やツールを提供するなどして、彼らが職場や文化にスムーズに馴染めるように支援するプロセスのことです。
オンボーディングは、最低でも1年間は戦略的に行うべきだと考えられています。新入社員の最初の数日、数カ月を、雇用主がどのようにサポートしたかが、彼らのエンゲージメントや定着率にも大きく影響すると言われています。
早速オンボーディングを採用したいけど
どう始める?

組織にとって最適な候補者を選び、採用するのは、理想的なチーム作りの第一歩ですが、最も重要なのは、新入社員が効率的に仕事に集中できるようにサポートする、オンボーディングの過程だと言われています。しかし、多くの組織では、オンボーディングとオリエンテーションが混同されているのが現状です。新入社員が入社に必要な事務手続き等を行うことも大切ですが、オンボーディングは、経営陣や他の従業員も交え、より包括的に、最低でも1年間は続けるべきプロセスです。
オンボーディングの事前準備として、経営陣とチームに下記のような質問をし、組織としての意識を統一をしましょう。
⒈ いつオンボーディングを開始するのか。
⒉ どのくらいの期間行うのか。
⒊ 初日に、新入社員にどのような気持ちで退勤して欲しいか。
⒋ 組織の文化や労働環境について、新入社員に知っておいて欲しいことは何か。
5. オンボーディング中、人事、上司、同僚は、それぞれどのような役割を持つか。
⒍ 新入社員にどのような目標を持って欲しいか。
7.オンボーディングに関するフィードバックをどのように収集するか、また、その成果をどう判断するか。
これらの問いに対する答えが揃い、新入社員への期待値を統一し、オンボーディングの方向性が明らかになったら、人事と経営陣は、オンボーディング・プログラムを作成できます。
どこに注力すれば効果的?
オンボーディングの実例紹介
「もし、新入社員の初日までに、雇用主がオンボーディングの準備をしていなかったとしたら、遅すぎます。」と話すのは、人事関連のソフトウェアを開発するIT企業のCEO、ベン・ピーターソン氏。「新入社員の書類上の手続きや、福利厚生の内容などは、事前に電子化して送り、署名等も電子で済ませられるようなシステムを作り、事務手続きを簡易化しましょう。」と続けます。新入社員が初日に行う事務関連の手続きを減らすのも、オンボーディングの一つです。
例えば、採用決定日からアクセスできる、オンボーディング関連のオンライン・ポータルを作成し、上司からの挨拶文に始まり、勤務初日の情報、同僚の写真やウェルカムメッセージ、社内で使われる略語、従業員ハンドブック、担当部署、業務の詳細などの情報を提供するのも良いでしょう。新入社員の初日の負担を減らす上、人事担当の事務的な業務を簡易化することにも繋がります。
また、基本的なことですが、新入社員の机、電話、コンピューター、ログイン情報などの設置・設定が完了していること、受付に新入社員の来社予定が伝わっているかどうかなども、組織に対しての印象に大きく関わります。
初日を終えた新入社員に
翌日も出社したいと感じてもらうには?
新入社員を迎える初日、組織としての目標は2つ、彼らに業務上何を期待するのかを明確に伝えること、そして、彼らにどこを目指してもらいたいのかを理解してもらうことです。前出のピーターソン氏は、「新入社員は、業務内容を理解するとともに、同僚とコミュニケーションを取り、関係を作ることも大切です。彼らに、翌日も出社して欲しいですよね?彼らと働きたいと思い採用したのですから、彼らを大切に思い、分かり合いたいと思っていることを知ってもらう必要があります。」と話します。ちなみに、ピーターソン氏の勤務するBambooHRでは、初日は、新入社員をランチに連れ出し交流するのだそう。
また、「新入社員を含めた、チーム全体に、彼らが担う業務と責任の範囲を明らかにし、既存社員が彼らに仕事を取られることなどを懸念するようなことがないよう、事前に根回しすることも大事な気配りです。」と同氏は続けます。
優秀な人材の成長を促し、組織にとって即戦力となるように支援する、タレント・マネジメントを専門に扱うSilkRoad社のアンバー・ハイアット氏によると、「新入社員を組織の文化に順応させることに注意を払わない組織は、やがて大きな不利益を被ります。なぜなら、組織の文化や労働環境をよく理解する従業員は、その組織に合ったよりよい判断ができるようになるからです。」
初日、1週間、1カ月目、3カ月目、6カ月目
マイルストーンで大切になる、話し合いの場
「新入社員の勤務開始から1カ月目に、彼らが快適に働けているか、様子を確認する場を設けるとともに、彼らの貢献度などを含めたフィードバックをしましょう。研修内容が不十分で、新入社員たちに必要なスキルやツールを与えられていない場合、彼らがこの先つまづくことは目に見えています。また、研修は、彼らが無理なく学べる速さで、その時々で必要なものを、適度な情報量で与えなくてはいけません。」と、前出のピーターソン氏。BambooHRの調査によると、4分の3の新入社員は、最初の1週間の研修が最も大切だったと答えたのに対し、41%の人事担当者は、研修内容にアップデートの必要性を感じていると答えています。
同氏はこう続けます。「最初の1ヶ月目を終える前に、彼らがメンターとなる相手を見つけられると、なおいいでしょう。」BambooHRの調査によると、56%の回答者が、職場でメンターや気の合う相手を見つけたことで、その職場に馴染むことができたと回答しています。また、国際的にビジネス関連の市場調査を行うAberdeen Groupの調査によると、成功している組織は、そうでない組織と比べて2.5倍の割合で、オンボーディング時に新入社員にメンターやコーチを付けていることが分かっています。「メンターを付ける」ということは、難しく考えることではなく、新入社員が気軽に質問できる相手を明らかにしておくということです。
勤務開始から3〜6カ月目でも、チェックインの場を設けましょう。「残念なことに、6ヶ月目以降もオンボーディングを続けている会社は、たったの15%です。新入社員の90%は最初の6カ月のうちに、その会社で働き続けるかどうかを判断します。大切なのは、雇用主や上司として、彼らのことを大切に思っていることを示し続けることです。」と前出のピーターソン氏。
双方にとっての査定の場となる1年目の査定
そして、オンボーディングの終了
「勤務1年目を迎えた従業員のパフォーマンスを見れば、彼らが組織にとって戦力となっているかどうかがわかります。1年目の査定は、今後の成長、キャリア展望、給与交渉、彼らの職場への満足度などを話し合う場となり、同時に、オンボーディングのプロセスが終了するタイミングにもなります。また、この査定の場で、彼らがその組織にそぐわないことを伝える機会にもなり得るでしょう。」とピーターソン氏。
こうした、長期にわたるきめ細やかなオンボーディングは、新入社員が組織に馴染み、即戦力として成長していく助けとなります。またそれは、彼らが離職せずに、会社に貢献し続けることで、組織の利益にも繋がっています。
参考資料:
SHRM『New Employee Onboarding Guide』
執筆者:
Chihiro Bjork
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