エージェンティックAI時代に、人事は何を守るべきか
- huminaresource
- Jan 13
- 4 min read

AIは「使うかどうか」ではなく「使う前提」に
生成AIやエージェンティックAI ※1 の進化により、人事の役割は大きな転換点を迎えています。採用、報酬、福利厚生、育成といった分野では、すでにAIが文書作成や確認作業、日程調整などを担い始めており、米国では「ジュニアレベルの業務」をAIに任せる動きが現実のものとなっています。 この流れは一時的なトレンドではなく、今後の経営や組織運営における前提条件になりつつあります。時代は、AIを使うかどうかではなく、どのように使うかが問われる段階に入っています。
ロサンゼルスの日系企業は「複雑さ」の最前線に
こうした変化は、ロサンゼルスで事業を展開する日系企業にとって、単なるテクノロジー導入の話ではありません。多文化・多国籍の人材が協働し、意思決定が一拠点に集約されない組織構造において、人事の役割そのものが再定義されつつあるからです。 スピード、柔軟性、多様性が求められる環境では、従来の管理中心の人事では対応しきれません。AIの導入は、その課題を浮き彫りにするきっかけにもなっています。
AI活用による生産性向上の裏失われる「何か」
HRアナリストのベン・ユーバンクス氏は、エージェンティックAIの活用が生産性を高める一方で、見過ごされがちなリスクがあると指摘しています。それは、AIへの過度な依存が、人間の思考力や判断力、創造性を弱めてしまう可能性です。研究では、生成AIの使用が発想の多様性を低下させ、使用をやめた後もその影響が残ることが示されています。また、AIの精度を過信すると、人は自ら考えることをやめ、判断そのものを委ねてしまう傾向があることも分かっています。 この課題は、分散型の意思決定を行う組織において、より顕著に現れます。誰が最終判断を下すのかが曖昧な環境では、AIが提示する「もっともらしい答え」が、いつの間にか事実上の意思決定になってしまうからです。その結果、判断の背景や責任の所在が不明確になり、組織としての学習や改善が進まなくなるリスクも生じます。
人事は「管理者」から「判断を支える存在」へ
だからこそ、AI時代の人事に求められるのは、単なる業務管理ではありません。AIは情報を処理し、最適解を提示することは得意ですが、文化的背景や組織文脈、感情の機微を理解することはできません。 人事は、異なる価値観や意図をすり合わせ、意思決定に必要な「文脈」を整える役割を担います。
AI時代に人事が守るべき
5つの人間的能力
約10年にわたる研究の中で、ユーバンクス氏は「AIでは容易に代替できない、人間固有の能力」が、これからの組織において決定的な意味を持つと述べています。特に人事において重要となるのが、次の5つの力です。
共感力(Compassion)
人事の役割において、最も重要だとも言える能力です。人を「効率や成果でのみ評価される存在」ではなく、「支援すべき一人の人間」として捉える姿勢。配慮や思いやり、個々の背景を理解する力は、AIには担えません。
創造性(Creativity)
変化のスピードが加速する中で、既存の枠組みだけでは課題に対応できなくなっています。新しい発想や、これまでにないアプローチを生み出す力が、組織の競争力を左右します。
協働力(Collaboration)
AIに問いを投げることと、人が集まり、議論し、責任を持って意思決定を行うことは本質的に異なります。チームとして考え、動く力は、人間同士の協働からしか生まれません。
好奇心(Curiosity)
AIは「なぜそうなのか」を自ら問うことはできません。関係性や問題の背後にある理由を探り、前提そのものを疑う姿勢が、より質の高い判断につながります。
批判的思考力(Critical Thinking)
AIは論理的な最適解を導きますが、人は粘り強く考え続け、簡単には答えの出ない問いに向き合うことができます。複雑な状況の中で答えを見つけ出す力は、人事の大きな強みです。
これらの能力は、スピードや効率が優先されがちな時代において、人間性、創造性、そして判断の質を組織に残すための基盤となります。エージェンティックAI時代に問われているのは、「どこまでをAIに任せるか」ではなく、「どの判断を人が引き受けるのか」という経営の姿勢です。
ロサンゼルスの日系企業において、人事はAIと人間の境界線に立ち、組織の意思決定の質を支える重要な存在になりつつあります。AIによる効率化の先に、人間性と判断力をどう残すのか。その問いへの向き合い方こそが、これからの組織の強さを決めると言えるでしょう。
脚注:
※1 生成AIが指示に応じて文章や情報を生成するのに対し、エージェンティックAIは、目的に基づいて自律的にタスクを実行します。
執筆者:
Chihiro Bjork






Comments