静かな崩壊 ― Quiet Cracking: 職場の“見えない疲弊”にどう向き合うか
- huminaresource
- Nov 10, 2025
- 4 min read
多くのリーダーが「燃え尽き症候群(バーンアウト)」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象にも、もう馴染みがあるかもしれません。ですが今、アメリカの職場ではそれらとは違う、もっと静かで、もっと見えにくい変化が広がり始めています。―それが「静かな崩壊(Quiet Cracking)」です。もしあなたがチームを率いる立場なら、その“ひび”はすでに、あなたの組織の中でも進行しているかもしれません。

Quiet Crackingはなぜ気がつきにくいか
Quiet Crackingとは、一見いつも通りに働き、成果を出しているように見える社員が、内側では少しずつモチベーションや活力を失っていく状態を指します。退職を考えるほどの不満はないものの、以前のように仕事を楽しめない。リーダーがその変化に気づく頃には、すでに本人の健康やチームの雰囲気、そして組織の成果にまで影響が及んでいることも少なくありません。 Quiet Crackingは、突然の離職や爆発的な不満ではなく、じわじわと進む「静かな摩耗(Silent Erosion)」です。目標は達成している。メールにも即返信する。それでも、かつての情熱が感じられない。会話は事務的になり、創造性は薄れ、主体性が少しずつ消えていく。それでも表面上は“機能しているように見える”ため、多くのリーダーは変化に気づきません。 「以前はチームで課題を解くのが楽しみだった。でも今は、一日を無事に終えることで精一杯です。」―ある従業員がBusiness Insider(2025)にこう語りました。
なぜ今、Quiet Crackingが増えているのか
現代の職場環境そのものが、この現象を助長しています。
経済的不安:転職リスクを取れず、不満を抱えたまま残る人が増加(Business Insider, 2025)
役割の不明確さ:組織改編や優先順位の変更で、自分の存在意義を見失う(John Addison Leadership)
認知不足:努力が正当に評価されず、「自分の仕事には価値がない」と感じる(WorkNest)
心理的安全性の欠如:率直な意見を言えない職場では、ストレスが内面で蓄積(SHRM)
「閉じ込められている感覚」「評価されない感覚」「声を上げられない恐怖」この三つの要素が重なり合うとき、人は静かに壊れていくのです。
Quiet Crackingのサインを見逃さないために
社員が完全に離脱してしまう前に、まずは小さな変化に目を向けてみてください。静かな崩壊は、突然起こるのではなく、日々の微細なサインの積み重ねから始まります。例えば、次のような変化が見られたら要注意です。
ミーティングでの発言や議論が減る
新しいプロジェクトへの関心が薄れる
成功しても喜びが感じられない
新しいアイデアやツールへの抵抗が強まる
会議中の集中力が続かない
Quiet Crackingの代償は想像以上に大きい
Quiet Crackingは、個人の問題ではなく、組織の健全性そのものを脅かす経営リスクです。企業を一夜で壊すことはありませんが、内側から静かに、そして確実に弱体化させていきます。その影響はさまざまな形で現れます。
イノベーションの低下:疲弊した心からは新しい発想が生まれない
離職リスクの上昇:辞める前に、すでに心が離れている
文化の劣化:静かな無気力は周囲にも感染する
健康被害:放置すれば、不安やうつ、バーンアウトに至る
リーダーにできる5つのアクション
1. 形式的なチェックインをやめる 「調子どう?」ではなく、「今の仕事でエネルギーを感じている?」「負担に感じていることはある?」など、具体的な質問で心の状態を探りましょう。返ってきた声には必ず行動で応えることが大切です。
2. 心理的安全性を築く 「弱音を吐いても大丈夫」と感じられる職場では、ひびは入りにくくなります。リーダー自身が率直さと脆さを見せることで、安心して本音を話せる空気が生まれます。
3. 結果だけでなく努力を認める 成果よりも過程に目を向け、小さな感謝やねぎらいの言葉を伝えること。それが離職を防ぎ、モチベーションを保つ大きな力になります。
4. “なぜこの仕事をするのか”を共有する 目の前の業務を超えて、組織としての目的や意義を共有することは、やる気だけでなく心の安定にもつながります。
5. 危機対応よりも予防策を「壊れてから支援する」のでは遅すぎます。日常的なストレスケア、小休止の習慣、匿名で相談できる仕組みなど、予防的なサポート体制を整えましょう。
最後に ― 静かな崩壊は、変革のチャンス
Quiet Crackingは、人が「言えない重荷」を抱えていることを知らせてくれる静かなサインです。だからこそ、リーダーに求められるのは、耳を傾け、誠実に対話し、努力を認め、支援を見える形にすること。壊れた人を支えるのではなく、壊れない環境を育てることが、本当のリーダーシップです。リモートワークが進む今、こうした現象は日米を問わず多くの組織で起きています。チームの心を守ること、そして何より自分自身の心を整えることが、静かな崩壊を防ぐ第一歩。自分の内側にある「小さな疲れ」に気づくこと―それが、組織をしなやかに保ち、未来へとつなげる力になります。






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